記憶に残るかまぼこ屋

福島県いわき市。川沿いの街に、ちょっと異様なくらい天井が高くて、駐車場がやけに広い店があります。入口を抜けると、冷ケースにはケーキのショーケースみたいに練り物が並び、その奥に大黒様と恵比寿様が鎮座している。ここが、株式会社かねまん本舗です。

かまぼこ、とは言わず、うちでは全部ひっくるめてシーフードケーキと呼んでいるんですよー遠藤社長の一言に、この店の思想が詰まっていました。ジャンルを守るより、入口を広げる。魚の加工品を、もっと軽やかに、もっと楽しく食卓に連れていく。そのための言葉です。

かまぼこをシーフードケーキって呼んでるの、たぶんうちだけ

諸事情で商標は取れない。けれど、言い切ってしまう潔さがあります。目の前のケースに並ぶのは、かに、たらこ、スモーク、揚げかま。生地は一種類、具材を入れ替えて多品種に展開します。変えるのは“中身”だけじゃなく、食べ方の気分まで変えていくやり方です。

商品じゃなく、体験で還元したい

店のシンボルになっている大黒様と恵比寿様は、ただの飾りではありません。京都の仏師に彫ってもらい、地元の神社で魂入れをしてもらったという本気仕様。「値段を下げる還元でも、商品を増やす還元でもなくて、ここに来た記憶を残したい」。その発想が、店づくりの隅々まで通っています。震災でも建物は倒れず、店は残りました。大黒様も恵比寿様も無事だった。土地の記憶を抱えたまま、店は“また来たくなる場所”として更新されていきます。バスが十台入る駐車場のスケール感も含めて、この店はどこか、テーマパークみたいに「帰り際の話題」まで設計されています。

「おやつはんぶんこ」という、未来の共食

取材で最も印象的だったのは、遠藤社長が語った新商品のコンセプトでした。名前は「おやつはんぶんこ」。狙いはシンプルで、ちょっと切実です。

人と犬が、同じ時間・同じ空間で、同じものを一緒に食べられたら。すごい幸せなんだろうなって。

少子化の時代。単身者や子どものいない夫婦、高齢の二人暮らし。犬を家族として迎え入れ、同じ部屋で同じ時間を過ごす人が増えている。ならば食事も、分け隔てなく共有できたらいい。そんな発想から生まれたのが、この「共食」の練り製品です。設計は犬優先の無添加、無塩。ベースは北海道産スケソウダラ。味の軸は、昆布と焼アゴ。人は薄味のまま食べてもいいし、あとから味付けしてもいい。主役はあくまで“一緒に食べる時間”です。

非常時にも、いつもの関係を持ち出せるように

もうひとつ、この商品には震災の経験が静かに折り込まれていました。避難先で困るのは、人間だけじゃない。ライフラインが止まって物流が止まると、ペットフードが途切れ、犬が食べるものがなくなる。だからこそ常温保存にし、賞味期限1年を目標にしていると言います。

非常食のバッグに入れておけば、1回2回分でも、一緒の時間を共有できるので。

“食べもの”の話なのに、最終的には“関係”の話になる。遠藤社長の言葉は、商品開発を越えて、暮らしの輪郭に触れてきます。

かながしらを、捨てないために

そして、福島のいまにも視線は向いていました。遠藤社長は漁師ではない。けれど加工業として、できることがあると言う。未利用魚として扱われがちな「かながしら」は、身が少なく、手間がかかる。だから流通しにくく、海に戻されることもある。そこに加工の出番がある。「知らない魚」を「食べてみたい魚」に変える。加工品として価値化し、外へ発信することで、漁業の景色を少しでも良くできるかもしれない。小さな一手でも、誰かがやらないと始まらない。そういう語り口でした。

なくしたくない文化を、次の世代へ

ものづくりが好きで、工場に行くとつい頑張ってしまう。けれど現場に抱え込まず、スタッフに委ねて支える側へ回る。遠藤社長の口から出てきたのは、華やかな成功談ではなく、文化を手渡す責任の話でした。

「かまぼこ」という文化は、まだまだポテンシャルが高いと思うんです

シーフードケーキと呼ぶこと。神様を置くこと。犬と半分こできるおやつを作ること。かながしらを価値に変えること。一見バラバラに見える選択の奥には、一本の芯があります。魚の加工品を、暮らしの中でもう一度当たり前にする。そのために、言葉も、売り場も、商品も、未来側へ少しずつ寄せていく。いわきの川沿いで、今日も冷ケースに入ったかまぼこはケーキみたいに光っていました。