これからは、冷凍保存で世界へ
2022年1月、成田空港に隣接するエリアに「成田市場」が移転しました。空港の近くにあることで、水産物の輸出手続きを市場内で完結できます。国内だけでなく、海外へもより早く、よりシンプルに魚を届けられる場所です。その市場の一角にあるのが、卸売から水産加工までを手がける「小古間(こごま)」です。代表を務める田邊さんは、この場所を単なる「便利な市場」として見てはいません。
世界で水産物の売り上げが落ちているのは、日本だけなんです。
そう話す田邊さんの視線は、自然と海外に向いています。日本は人口が減り、胃袋も小さくなっている。一方で、アジアを中心に若い人口が多い国々では、これから食の市場が伸びていく。
小古間はもともと築地の卸から始まった店だ。成田の代表になった田邊さんは、3年前から水産加工に本格的に取り組み始めました。以前はタイ、現在はモンゴルやドバイへ。冷凍という手段を使い、日本の魚を世界へ届けています。
日本の胃袋は小さくなっている。
でも、世界の胃袋はまだ大きい。
生で止めるために
マイナス60度を選んだ
田邊さんの一番のこだわりは、冷凍方法にあります。数ある冷凍技術の中から選んだのは、「リキッド凍結」と呼ばれるアルコールを使った液体凍結。その中でも、あえてマイナス60度という極端な温度を選択しました。
一般的なリキッド凍結はマイナス30〜35度が多い。家庭用の冷凍庫はマイナス15度前後。空気でゆっくり凍らせると、魚の細胞は「凍る→溶ける」を繰り返し、その過程で壊れてしまう。旨みが流れ出るのは、そのためだ。マイナス60度の液体に入れると、魚は一気に凍ります。鮮度は“その瞬間”で止まる。ただし、温度が低すぎると細胞が反発して壊れるリスクも出てきます。小古間では、液体を揺らす特許技術を用いて、その問題を回避している。顕微鏡で細胞を確認し、飲食店と試食を重ね、たどり着いた答えでした。
え?生ですよね?
初めて食べた人が、そう口にする。その反応が、この技術のすべてを物語っています。
冷凍なのに、賞味期限は1週間
この冷凍技術で、田邊さんが一番味わってほしい魚がマグロです。実はマグロは、マイナス40度以上だと筋肉内の酵素が働き、少しずつ変質してしまうとそうです。小古間ではマイナス60度で凍結し、その後もマイナス50度以下で保管・発送を行います。とはいえ、家庭用の冷凍庫はマイナス15度が限界。だからこそ、小古間では賞味期限をあえて約1週間に設定しています。「長く持たせる」より、「一番おいしい状態で食べてもらう」ことを優先した結果です。
中トロの握りでも、おいしいものを出したいんです。
原材料となるマグロは、田邊さん自身が豊洲で選別する。脂のりが良く、握りにしても成立するものを、あえて加工します。重視しているのは、口に入れたときの“ねっとり感”。中トロの握りでも、ちゃんとおいしいと思えるものだけを使っています。
食と心で、人をつないで
田邊さんが食の世界に入ったきっかけは、高校1年生のとき。兄が働いていた成田の飲食店を手伝ったことから始まりました。食堂、旧成田市場の水産部門。さまざまな仕事を経て「小古間」に出会い、社長が辞めるタイミングで「全部あげるからやってみない?」と任されました。振り返ると、いつも流れに身を任せ、その時々を懸命に生きてきたという。人に紹介され、また人を紹介し、人との縁を大切にしてきました。その積み重ねが、今につながっています。
その時その時を生きてきて
ここにたどり着いた感じですね。
田邊さんの会社の理念は「食と心で、人をつないで」。
おいしいものを食べている人の表情を見ると、ほっとする。だからこそ、毎朝4時に豊洲へ行き、成田で魚を冷凍・加工し、日本へ、そして世界へと送り出します。冷凍は目的ではなく、人をつなぐための手段です。
これからは、冷凍保存で世界へ。
その先にあるのは、「おいしい」と笑う顔でありたい。
