心の中にあるモヤモヤ
岩手県大船渡市で四代続く森下水産株式会社は、水産物の買付・販売・加工を担い、三陸から全国へ海の恵みを届けてきました。「震災以前は、サンマもイカもサバも、ここで揚がる魚だけで一年の仕事が成り立っていたんです」と森下航生さんは語ります。しかし、10年前あたりから水産資源が減少し、海外から原料を輸入しはじめ、今では外国産が9割を超えるまでになりました。
大船渡の市場でどんな魚を買って、どこで売っていますか?
社会科見学で訪れる地元の子どもたちから、必ず聞かれる質問があります。森下さんは毎度やるせない気持ちが込み上げます。大船渡の魚市場ではほとんど買っていなくて・・地球の裏側で獲れた魚を買って加工して、関東のコンビニやスーパーで売っていると説明するわけです。
子どもたちは当然キョトンとしますよね。
加工に関してもOEM商品や弁当工場向けなどが多く、販売される商品に森下水産の名前はないのです。子どもたちは市場→加工工場→地元のスーパーと続けて見学して、地元の産業や流通について学んでいるのに、一連の流れを示すことができない。森下さんはずっと悶々としていました。
地域資源を生かした循環をつくりたい
そんな中、隣の釜石市では2020年から地元の漁業会社と岩手大学が研究を進めてきたサクラマスの養殖事業が成功。森下水産でも岩手三陸のサクラマスを取り扱うことを決めました。
ここの海の恵みを伝える、新たなスタートになったら。
水揚げしたその日のうちに三枚におろして急速冷凍するため、新鮮な刺身を全国へ届けることができます。地場のものを、自社の名前でお届けするという新しい取り組みです。また、自社の従業員はもちろん、水産業に携わる人が多い大船渡の街への想いも大切にされている森下さん。「本来、地元の市場で魚をたくさん仕入れて、加工して、全国へ届けることでお金が集まって、地域が潤う。」地域資源を生かしたシンプルな循環を諦めない4代目の想いがあります。
自然とともに生きる
会社の目の前には海へと続く盛川が流れ、川沿いの桜並木で毎年従業員の皆さんとお花見弁当を食べるのが恒例行事でした。大船渡を襲った津波は、海から桜の木を倒しながら逆流してきたといい、現在も工場を超えた少し先には桜並木が残っていて、被害の大きさが想像できます。また、森下さんは記憶に新しい大船渡市の森林火災でも避難を余儀なくされたにもかかわらず、度重なる自然の猛威を冷静に振り返り、苦労を感じさせません。
サーフィンを始めてみたら海がとっても気持ち良くて。
長く野球に打ち込んできた息子さんたちの追っかけ応援を卒業するとともに登山でもはじめようと考えていた矢先、熊の被害が増え、山から海へ転向し、サーフィンをはじめることに。すると、夏は毎日海で遊んでいたという子ども時代の感覚が戻るのか、リフレッシュできる!とご自身で驚くほど。自然とともに生きる喜びも難しさも実感してきた森下さんは、大船渡の魅力を水産業を通じて次世代に伝えていきます。
