無添加・手作りのお魚惣菜

株式会社ヤママサは、港町・塩竈で75年続く老舗の水産加工会社。
創業者の孫にあたる三嶋ひよりさんが、パステルカラーのパッケージに入った惣菜セットを手に、出迎えてくれました。おしゃれな雑貨店にでも並んでいそうな洗練された包装に、思わず「かわいい!」。

主要な事業はマダラのフィーレ製造ですが、約20年前に三嶋さんの母が総菜部門を立ち上げ、素材の良さと女性目線の商品づくりで地道にファンを増やしてきました。三陸産を中心とした天然の原料を使い、それぞれの魚に合わせて調味料を吟味し、添加物を使わず鍋でじっくり煮込む手作り。

現在は「ナチュラル・キッチン たらや」のブランドで数十種類の豊富なラインナップを揃え、大規模生産では出せない深い味わいが好評です。お客さんの声を反映して小さめの「食べきりサイズ」をリリースすると、さらに幅広い層から注文が入るようになりました。

家業を継ぐという決意と気づき

創業家に生まれた三嶋さんですが、「もともと家業に入るつもりはなかったんです」と笑います。大学進学で上京し、就職を機に宮城へUターン。企業の営業職として7年間働くなかで、次第に「やっぱり食に関わりたい」「地元に貢献したい」という思いが膨らみ、2022年、ヤママサへ入社しました。

うちは、これほどいい仕事をしていたのか。

家業を仕事として見つめ直して気づいたのは、原料の目利きから製造工程の隅々にまで、「おいしさと安全」を追い求める姿勢が息づいていること。いいものを作りたい——そんな創業者の想いが、会社全体に根を張っていました。

たとえばタラ。扱いが難しく、品質の差が出やすい魚ですが、ヤママサのフィーレは薄塩で水分を保ち、旨みを引き出します。臭みがなく、口にすればしっとりとした極上の食感。その味を支えるのは、古くても丁寧に手入れされた工場設備です。ひとつひとつの工程に、積み重ねてきた誇りが宿っています。そうした事実に触れたとき、三嶋さんは背筋を正し、受け継ぐ覚悟を固めたといいます。

おいしさ×簡便性への挑戦

原料価格の高騰や調達の不安など、決して追い風とは言えない状況のなかで、三嶋さんが選んだ道は——「おいしさへのこだわり」を貫くこと。創業以来の味づくりの精神を守りながら、次の時代にふさわしいかたちを模索しています。

健康のために魚を食べたい人は必ずいる。
おいしさと簡便性の両立で、魚の魅力をもう一度届けたい。

現在は塩たらフィーレが全体の約9割を占め、惣菜はまだ1割ほど。けれど三嶋さんは言います。「これからは、もっと一般の家庭で魚を食べてもらえるようにしたい」と。その思いをかたちにするために、惣菜部門では“簡単で、おいしい”を追求。地元・宮城の純米酒の酒粕で仕込む〈たらの粕漬け〉をはじめ、煮魚惣菜で人気を集めた“食べきりサイズ”を魚の漬けシリーズにも展開しました。

いずれも冷凍商品で、専用容器を使えば電子レンジで温めるだけ。火を使わず、誰でも手軽に本格的な魚料理を楽しめます。老舗の技と新しい発想。その掛け合わせが、いまの暮らしに寄り添う魚食文化を生み出しています。

魚食離れが進む今、「おいしいだけでは選ばれない」と冷静に分析しながらも、信念は揺らぎません。受け継いだ想いを次の時代へ。塩竈から、食卓の未来をつくりつづけています。