一本釣りの港で、魚と向き合う

千葉県勝浦。400年以上続く朝市を抱えるこの町は、古くから魚とともに暮らしてきました。勝浦漁港のすぐ近くにある株式会社サラヤ保﨑商店は、そんな土地の記憶をそのまま引き継ぐような場所です。代表の保﨑仁さんの家族・親族は、この地で100年以上、漁業と水産加工に携わってきました。

勝浦漁港の最大の特徴は「カツオの一本釣り」。全国各地から一本釣り漁船が集まり、港には鮮度のいいカツオが水揚げされます。2025年12月には約30年ぶりに水揚げ量が日本一になりました。

一本釣りで獲れた鰹は魚体に傷がつきにくく、生のまま市場へ水揚げされてくる。その違いは、加工の現場でこそはっきりと表れます。

やっぱり、生で港まで来たほうがおいしいんですよ。

船上で凍結する方法もありますが、急速に冷凍するブライン凍結では高濃度の塩水を使うことになり、余計な塩分が身に入ることになります。生の状態で届けば、加工の際に「ごりがつお」や「石がつお」と呼ばれる血生臭く身質の硬いものの選別ができるため、より適した冷凍方法を選ぶことができ、余計な塩分を加えずに済む。かつお節にしても、刺身にしても、最終的に消費者に届く味を考えると、生のカツオを仕入れることの価値は大きいと保﨑さんは考えています。

勝浦産、千葉県産をどう届けるか

サラヤ保﨑商店が扱うのはカツオだけではありません。「立縄釣(たてなわづり)」という漁法を用いて獲られる勝浦灯台沖きんめ鯛は、水深のある場所で獲られます。水深が深い=水温が低い環境で育った魚は、自然と脂のりが良くなる。その金目鯛を、面倒な鱗やエラ、ワタを処理し、勝浦の地元漁師の家で親しまれているレシピをもとに作ったタレで簡単に煮つけにできる商品として届けています。

一方で、保﨑さんが常に意識しているのは「魚を食べてもらうこと」。

魚はおいしいけれど、調理が面倒。皮、鱗、骨──。そう感じて魚から遠ざかる人が増えている現実も、現場で実感しています。

手間がかかる魚は選ばれなくなってしまう。

だからこそ、解凍して切るだけの刺身ブロック、解凍して付属のタレで簡単にできる煮つけ、千葉県が推している醤油を使った黒アヒージョなど、手軽に食卓に並ぶ形にこだわって商品を開発しています。

魚の魅力を下げるのではなく、入口を広げる。そのための加工だと、保﨑さんは考えています。

勝浦の魚を、日常に戻したい

取材に訪れた日、工場では千葉県内の学校給食向けフライの衣付け作業が行われていました。衣の付き方で仕上がりが変わるため、基本は一枚ずつ手作業。効率よりも、食べる人の顔を思い浮かべながらの作業です。

地元の魚を使い、丁寧につくったフライが、子どもたちの「おいしい」につながる。その声が聞こえたとき、やりがいを強く感じるといいます。

小学生の息子さんも、学校で「これ、うちで作ったフライだよ」と話しているのだとか。食卓と仕事が、自然につながっている風景です。

10年先も20年先も、ここ勝浦から魚を送り出していきたい。

保﨑さんが家業を継いだのは約20年前。4人兄弟の末っ子として育ち、一度は地元を離れましたが、30歳の頃に父親の体調不良をきっかけに勝浦へ戻りました。仕事を始めて見えてきたのは、漁師の高齢化や担い手不足という現実。それでも、「せっかく海に囲まれ、豊かな恵みがあるのだから」と、魚が食卓に並ぶ日常を諦めていません。

勝浦の港から、選ばれる魚料理を
サラヤ保﨑商店の仕事は終わることはありません。