看板商品を守っていく

岩手県釜石市。三陸の海とともに70年続く水産加工会社・ヤマキイチ商店。看板商品の「泳ぐホタテ」が人気です。「勝手に“活”って書いてるけど、全部が元気なわけじゃない。うちのホタテは本当に泳いでいるんだ、と区別したかったんだと思います」。と話すのは二代目の君ヶ洞剛一さん。ヤマキイチの屋号の色と同じ、赤い長靴が印象的です。

同社の歴史は、前浜に余ったホタテを“どうにか活かしたい”という小さな工夫から始まった。いまではワカメ、いくら、あわび、うに、ほや──三陸の恵みを幅広く扱う存在へと育ってきました。

それでも、歩んできた道は平坦ではありません。

復興はいい意味で裸の付き合い。カッコつけてる場合じゃないんで。

東日本大震災では会社・家屋共に全壊・流出し、靴下一足からまた買い直すという生活に。それでも悲観せず、周囲もみんな同じ状況だから…と淡々と立て直していく中で、異業種の人と出会い、つながりが生まれたと言います。そして全国のお客様から届いたエールが、事業再開の大きな支えになりました。

日本一高く仕入れる

君ヶ洞さんは3兄弟の長男。3人とも野球に打ち込んでいたため、将来的には「家業」より「野球」が目の前にあったと振り返ります。それでも繁忙期には、少しでも父が楽になるようにと、作業の準備を手伝ってきました。

子どもの頃は、父が扱うホタテが日本一高値で販売されていることをただ“すごい”と思っていました。けれど成長するにつれ、より大切なことに気づきます。

日本一高くホタテを売る会社ではなく
日本一高く仕入れる理由をつくる会社だということ。

仕入れの先には漁師さんとその家族の暮らしがあります。だから仕入れはただのコストではない。しっかり頑張っている人に、しっかりと行き渡る循環をつくりたい。君ヶ洞さんは今も、漁師から“高く買える理由”を探し続けています。

海と人をつなぐ

その姿勢は、商品の幅を広げることにもつながっていきました。うに・ほや・あわび・加工品などを増やしながら、海の変化に合わせて柔軟に会社を育てていくことを考えています。商品数が増えていくのは、売上のためだけではありません。海況の変動が大きい三陸で、人と人の循環を途切れさせないためです。

ヤマキチさんならと買っていただける。
その信頼が、新しい事業を育てる力になる。

さらに、遠くから時間をかけて直売所に来てくださるお客様と、しっかり話せる場所が欲しいと思い、2022年に本社・加工場の隣に食事処「与助」をオープンしました。ホタテ料理はもちろん、母親や漁師の奥さん方がつくる小鉢は、どれも評判です。茎わかめの季節の和え物、ほたての卵巣の煮付け──どれも手間の込んだ“釜石の浜のかあさん”の味です。ここで提供される料理は、海と人の時間をそのまま映し取った一皿でもあります。

三陸の水産業は、資源・人材・環境の変化に揺れ続けています。

どう循環を整えていくか。それを考え続ける日々。

漁師が続けられること。
加工場で働く人が誇りを持てること。
お客さんがまた来たいと思えること。
母の味が次の世代につながること。

そのすべてをつなぎ、人が海とともに生きられる循環を守ること。それこそが、ヤマキイチ商店が担ってきた仕事であり、これからも変わらない軸です。